イラストを描いている方であればアニメーションに興味がある方は少なくないと思います。ですが、実際に制作するとなると多くの知識やスキルが求められ、なかなか手が出せないものです。
特に難しいと感じられるのは、例えば1コマを何秒にしたらよいかとか、コマ毎の動きの変化をどのように割り振ったらよいのかなどの時間軸に関する部分ではないかと思います。通常のイラスト制作では時間ごとの絵の変化を考慮する必要はありませんので、これはアニメーション独特の要素と言えます。
この記事では、クリップスタジオペイント(以下クリスタ)の3Dモデルを用いたアニメーション用テンプレートの作例をご紹介します。
3Dモデルをテンプレートに用いることで、動きのイメージをつかむことが容易となり、アニメーション制作に対する敷居をグッと下げてくれるような気がします。
クリスタの3Dモデルは、セルにも配置できる
アニメーションフォルダを作成し、そのフォルダ内に作ったレイヤーは、いわゆるアニメーションセルとなります。このアニメーションセルは、見た目も扱いもイラスト制作時のレイヤーと全く同じです。
アニメーションフォルダは、一連のアニメーションに必要なセル(レイヤー)をひとまとめにするだけでなく、セルに対してオニオンスキンだったりトゥイーンだったりとアニメーションに必要な特別な機能を与える役割があります。
こうした特別に与えられた機能を除けば、セルは結局のところイラストにおけるレイヤーと全く同等に扱え、通常のレイヤーと同じように3Dモデルが配置できます。
サンプルアニメ(歩く動作)
ここでは具体的に、「歩く動作」を例に用いて、3Dモデルを使ったアニメーション用のテンプレートを作成してみたいと思います。
アニメーションの基本は、ネットや書籍の情報、実際のアニメや人の動きの観察
アニメーションで表現したい「動作」に関する情報は、書籍やネットなどから得られるほか、既存のアニメーションや実際に人が歩く姿を観察することで得ることができます。
私が入手した「歩く動作」に関するポイントは、以下のようなものです。
- 日本のアニメの基本は、3コマ撮り[1枚のセルを3コマ分撮影](1秒間に24コマ=24fpsの場合)= 実質 1秒8コマ
- 1歩当たり0.5秒、2歩で1秒
- 1秒で8コマなので、1歩はセル4枚
- 踏み出した片足が接地した瞬間を原画とし、もう片方の足が接地する瞬間を次の原画とした場合、原画と原画の間の中割りの枚数は3枚。
言葉だけではわかりにくいかも知れませんが、得られた情報を元に説明を進めていきます。
この記事内においては、セルは実際に描かれた一枚一枚の絵を意味し、枚数で数えています。また、コマ=フレームで、アニメーションの時間軸の最小単位となります。
ポージングはネット画像やアニメ教科書を参照
歩く動作は人間の動作の中でも基本的なもののひとつと言えます。アニメーションに関する教科書であればかなり詳しく説明されています。
モデルのポージングについては、教科書に掲載された具体的な絵柄を参照してもよいですし、実際に歩きながら観察した姿勢を反映されてもいいと思います。観察力や想像力をアップしておけば、教科書にない特殊な動作やイメージしたダイナミックな動きをアニメーションで実現することができるかも知れません。
セルの準備
最初にアニメーションフォルダを作成し、フレームレートを8とします。
アニメーションフォルダを作成すると、番号1の空っぽのセルが自動的に作られます。

この空っぽのセルに3Dモデルを入れようとしても3Dモデルは入りません。空っぽセルとは別に3Dモデルの名称のフォルダができてしまいます。そこで、このモデルの入ったフォルダ名称を1に変更し、空っぽのフォルダは削除してしまいます。

空っぽフォルダには元々何も入っていないので、このまま残しておいてもいいのですが、名称を付ける際にややこしくなりますので、一旦削除しておいた方がわかりやすいと思います。
ポージング(踏み出し)
「歩き」動作は、歩いている最中の動作を表現します。立っている状態から歩き出す動作や、歩いている動作から立ち止まる動作は、別途検討します。
左足を前に踏み出した状態を最初のポーズとし、これを一枚目のセルとします。
3Dモデルは初期設定で正面向きになっていますが、歩行ポーズをつけるには、横向きの方がわかりやすいと思います。
カメラアングルを変更して、横向きにするなど適時視点を変更しながらポーズを調整します。(モデルそのものは回転させません)

カメラアングルは、移動マニピュレーターでマニュアル設定するか、カメラアングルプリセットを使えばワンタッチで変更できます。


ポーズを調整する際の注意点としては、3Dモデルの中心である腰の部分の角度を変えない(下図のモデルの赤い部分)ことです。座標の原点は腰の中央にあり、したがってこの部分の角度や位置を変えるとモデル全体の角度や位置が変化してしまいます。
また、この腰部分の角度を変えてしまうと基本座標の方向が変わってしまい、あとあと調整が難しくなることがあります。(「接地」させた場合に限り、XとZの位置を原点に置いた状態で、地面を基準に腰の位置は自動で上下します)

初期設定におけるクリスタの3Dの基本座標は、個々のモデルを基準としており、空間に固定された座標が置かれているわけではありません。
ポージング(最初の1歩)
踏み出した左足が接地した瞬間を一枚目の絵にしましたが、続いて右足が接地した瞬間の絵を考えてみます。この2枚の絵の間は一歩となりますが、間に3枚入るため、5枚目の絵になります。
1のセルを4枚複製してトータル5枚のセルを作ります。(図では2歩分の8セルを一気に作っています)

セルはすべて番号1なので、アニメーションートラック編集ータイムラインの順番で正規化を選択します。

各セルに自動で1~5の連番が割り当てられます。(図では2歩分の8セルまで一気に正規化しています)

ここで一旦、タイムラインに各セルを並べたいと思います。
タイムラインのフレーム1にセル1、以降セル2~5を順にライムラインに配置します。すべて同じポーズなので、この時点では再生してもポーズは変わりません。(図では2歩分の8フレームまでまとめてセルを割り振っています)

フレーム1が左足が接地した瞬間であるのに対して、フレーム5は右足が接地した瞬間です。モデルのポーズとしては、フレーム5はフレーム1の左右反転になり、フレーム5に置いたセル5のモデルを左右反転します。
これで、セル1とセル5のポーズができました。

フレーム3
フレーム3、つまりセル3のモデルは、フレーム1と5の中間のポーズになります。

踏み出した左足は徐々に後ろに移動し、右足は前に向かって進んでいる状態です。
この3フレーム目は、タイミング的には、左足も右足もちょうど中間地点で、互いに交差する瞬間と考えればいいと思います。左手と右手も同様におおよそ体の中心くらいに位置する瞬間と考えていいと思います。
フレーム2、4
フレーム2はフレーム1と3の中間のポーズ。そしてフレーム4はフレーム3と5の中間のポーズです。

アニメーションフォルダ内に置かれたセルであれば、オニオンスキンが使えますので、前後のセルを表示させて、ちょうど中間のポーズになるように調整します。
※ 改めて見てみると、2番と4番は左右反転の関係になりそうですね。プロセスがやや複雑になってしまうため、ここでは引き続き1番から4番を基本ポーズとして進めます。
フレーム6~8
フレーム6,7,8は、それぞれフレーム2、3、4の反転ポーズです。セル2、3、4を複製し、セル番号を6,7,8に変更し、セル6をフレーム6に、セル7をフレーム7に、セル8をフレーム8に割り振ります。そして、各ポーズを左右反転させます。
これで、歩行の1ループ分のポーズが出来上がりました。
アニメーションの確認
作成したポーズを再生して動きを確認します。違和感がある場合は、対象となるセルのポーズを調整して再確認します。

全部出来上がってから初めて再生するのではなく、モデルのポーズを調整しながらその都度再生確認しながら作りこんでいくのが実際的です。
アングルの変更
横向きに歩くのではなく、他のアングルにしたい場合は、カメラアングルを調整します。
カメラアングルはセルごとに個別に設定しなくてはなりません。1~8セルそれぞれについて、同一のカメラアングルのプリセットを選択します。
任意のアングルの場合、セルごとにカメラの位置と注視点のXYZ値を入力する必要があります。

作業の効率化、モデルの変更
一連のポーズを作成した後で、モデルを変更したり、キャラクターに変更したくなることもあるかも知れません。
一旦作ったセルのモデルを後から変更することはできません。そこで、作りこんだポーズを登録し、再利用できるようにします。
「歩く動作」を例にしてプロセス例をご紹介します。
基本ポーズの登録
基本ポーズは4つです。セル1~4のポーズに例としてwalk1~4という名称をつけ、ポーズ素材として登録しておきます。
基本ポーズを登録することで、流用しやすくなり作業効率も高まります。
登録ポーズを使った場合の基本プロセス
登録した基本ポーズ名称を仮にwalk1~4として、この素材を使ったアニメーションテンプレートの作例を簡単に説明します。基本的な流れは上記と同様なので、必要に応じて上記の説明図をご参照ください。
- アニメーションフォルダを作成する
- アニメーションフォルダに、使いたい3Dモデルもしくはキャラクターを入れセル名称を1に変更する。初期設定で入っていたセル1は削除する
- 希望のカメラアングルに設定したセル1を7枚複製し、トータル8セルとする
- セル番号を正規化してセル1~8とする
- タイムラインにてフレーム1にセル1を指定~フレーム8にセル8まで順に割り振る
- セル1のモデルに walk1のポーズを適用する。順にセル2に walk2、セル3に walk3、セル4に walk4、セル5に walk1、セル6に walk2、セル7に walk3、セル8に walk4を適用する
- セル5~8のモデルを左右反転する
モデルを移動させる場合
最初に作ったテンプレートは、モデルが同じ場所で足踏みする、いわゆるフォロー(カメラがモデルと一緒に移動し、背景が後ろに流れるスタイル)と呼ばれる表現です。
シーンによっては、モデルを前に移動させたい場合があると思います。その場合は、各フレームでモデルのX方向の位置を変化させます。マニュアルで移動させてもよいですし、より正確にX方向に進めたいのであれば、モデルの位置Xの値に数値を加えます。
1コマあたりおおよそ7~8程度の数値を入れると、自然な歩幅で前に進めることができます。(モデルの歩幅や歩き方で変化します)
また、キーフレームを使用してアニメーションフォルダ全体を移動させる方法もあります。

まとめ
3Dモデルは、アニメーション用に作られているわけではなく、あくまでもイラスト用に最適化されたツールです。ここではアニメーション用テンプレートとしてやや強引に使用していることもあり、制限も多く、また使い勝手も決してよくはありません。
またご紹介したテンプレの作成方法ではすべての動作をカバーできるわけではありません。例えば、回れ右のようなモデルを回転させる動作の場合、登録ポーズをモデルに適用すると、すべて同じ方向を向いてしまいます。ポーズ素材がモデルの位置や回転情報を持っていないためにこのような現象が発生してしまうのです。
同様に地面からジャンプしているようなポーズにする場合も追加手続きが必要になります。3Dモデルにポーズを適用すると自動的に接地されてしまいます。ジャンプさせるには、各セルのモデルの位置をマニュアルで移動させるか、位置Yにプラスの数値を入力します。
このようにいくつかの制限や使いにくさはあるものの、描画前に3Dモデルを使うことで精度の高いアニメ―ションのイメージをつかむことができます。それだけでもアニメーション制作の敷居が下がり、ちょっと安心できるような気がします。
今後機会があるごとに、アニメーション用の3Dモデル素材を作成し、クリップスタジオのアセットに登録していきます。アニメーションに関心があるものの、ちょっとためらいがあるようでしたら、まずはテンプレートを試してみてください。
また、ご自身で新らたなテンプレート(ポーズセット)を作られましたら、是非アセットにアップしていただきたいと思います。
参考書籍
こちらの教科書は絶版かも知れません。現場の人しかわからないような書き方をしている部分も少なくありませんが、内容は秀逸です。
書籍の内容の前半はクリスタのアニメーション操作(使い方)についての説明になっています。初心者にもやさしい内容ですが、もう少しアニメーションの基本動作のバリエーションにページを割いて欲しいと感じました。アニメーションの基本動作については、上の「誰でもわかる!アニメの基本バイブル」の方が充実しています。
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