人体の構造や形状が極めて複雑であることから、キャラの肌に影を入れる「影塗り」もまた複雑で難儀な作業のひとつです。
本記事では、これまでにいろいろ試してきた結果得られたキャラの肌への「影塗り」についてまとめた内容をお伝えします。
イラストにおける影の種類
イラストで描かれるキャラの人肌の描写に用いられる影は、大きく分けて
- 自然な影
- 立体影
があげられます。
自然な影
光が当たっている面の裏側にできる暗い面が自然にできる基本的な影ですね。
そして、光が何かでさえぎられたときに、その何かによってできる影があります。この影は「落ち影」と呼ばれています。地面や床面にできる影も落ち影のひとつと言えます。
立体影
立体影は、モノの形が立体的に見えるように疑似的に描写した影です。
人体図や解剖図、地図の陰影法などが代表的な例です。やたらと肉感的、扇情的に表現されるエロ画ではこの立体影が誇張表現されることがあります。
疑似的なので、そこに実際に影があるわけではありません。
今風のイラストは立体影が主体
今風のイラストは、全体的にトーンが明るく、また、色の範囲も適度に絞って統一感を高めた表現をよく目にします。
そうした表現の場合、影塗りは、あっさりした立体影が主体で、自然な影は全体にほんのりと入れられている程度です。
どこにどのように影を入れたらよいか?
一見単純そうな「影」ですが、意外と思うように描けないものです。
思うように描けない理由は、決してツールの問題ではありません。ツール以前に「どこにどのように影を入れたらよいか」がはっきりしないまま「塗り」に走ってしまうからではないかと思っています。
説明している教科書ってある?
で、実際のところ「塗り」に関する教科書をめくってみると、ツールと色、プロセスの説明が主体です。
また、「身体の描き方」に関する教科書を見てみると、骨や筋肉に関するカラダの構造の説明が主体です。説明図の多くには線画が用いられています。
人体の構造が理解できていないと、正確な立体表現ができないのは確かですが、構造を理解するのはかなり大変ですし、線画だけではなかなか立体感をつかむのは難しいと思います。
ちなみに「デジタルイラストの身体描き方事典」に肌の塗りについての記述がありますが、この書籍では「立体影」という考え方は取り上げられていません。
影ってどこにつけるの?
教科書だけでは情報が乏しいので、自分で分析してみましょう。
最初に分類した「自然な影」と「立体影」のそれぞれについて再確認していきます。
自然な影
自然な影は、日常目にしている影です。
キャラのイラストの場合、クリスタの3D機能でモデルを作り、光源を設定してできる影が「自然な影」の一部です。一部というのは、3Dモデルの場合、床面への「落ち影」はできますが、自分自身への「落ち影」はできません。
なので、「落ち影」については、自分で描き込まなくてはなりません。光源が遮られた結果できる影なので、形さえ認識できれば、描き込むことはさほど大変ではありません。
自然な影はわかりやすいですし、3Dモデルを参照できますので、問題ないですね。
立体影
「立体影」は、ものの形を浮かび上がらせるために疑似的につける影なので、現実には存在しない影です。
自分で創作する影なので、どこにどのように入れるかは、その人の「意図」や「計画」がはっきりしていないとイミフな陰影になってしまう可能性があります。
とは言うものの、結局のところ、「誰が見てもそう見える」ように描くには基本があるはずです。
谷間
影をどこに入れるか? と聞かれたら、まずは「谷間」ですね。
女性の胸の谷間を想像してしまうかも知れませんが、全くそのとおりで、凹んでいる部分に深いほど暗く、浅いほど明るい影を入れます。ただし、浅くても狭い谷の場合は、やはり暗い影になります。
逆に、手前に突き出している部分にはハイライトを入れます。
曲面
曲面を表現する場合は、グラデーションを用いた陰影を施します。典型的な例がエロ画ですね。
出っ張っている部分を浮かびあがらせるために、相対的に凹んでいる部分に影を入れます。不思議ですが、見ている人は、明るい部分ほど手前にあると勝手に判断してくれます。
面の角度が変化した場合
面の角度が変化した場合に影を入れることがあります。こうすることで、そこで形状の変化が発生していることがわかります。
女性の胸ばかり引き合いに出して申し訳ありません。
平たい胸筋部分から乳房が立ち上がる場合を例にすると、胸筋側にうっすらと影を入れることで、円の部分が手前にあるように表現できます。
さらに、膨らんだ部分に影を描き足すことで球面がこちら側に飛び出しているように表現できます。
人体への応用
肘や膝の骨や筋、筋肉の盛り上がりなども、この発想で表現できます。コツのようなものですね。
教科書には、どこにどんな筋肉がついているかについて書かれています。筋肉の束は、ご存じのようにラグビーボールのような形で膨らんでいます。この筋肉の束は「立体影」的には明るい部分と考えていいと思います。
筋肉全体 → 明るい部分
それ以外 → 暗い部分(影の部分)
下の図は、左から 線画、筋肉の位置、筋肉の境目に影を入れた状態、陰影図 となります。(筋肉については、デジタルイラストの身体描き方事典を参照しました。前腕筋については一部省略しています)
筋肉部分を、一つの丸い塊だと考えると、球体と球体が接した境目は谷になります。現実には脂肪もあれば、皮膚もありますので、深い谷間ではありませんが、少なくとも、この境目で面の角度が急変化するはずです。浅い谷間と考えてもいいと思います。
実際には、筋肉図をわざわざ描く必要はなく、筋肉図を見ながら、筋繊維の束が接する部分に影を入れることで立体影が出来上がります。
最終的には、自分の目で自然に見えるかどうかを判断し、調整します。
まとめ・・・描画ツールの問題ではないです
人体に限らず、目に見えるものの多くは意外と複雑です。
イラストで表現する場合は、どんな簡単なものでも、写真や資料を収集し、改めて観察した上で描かないと不自然に見えることがよくあります。
「見たまま描け」と言われますが、その意味するところは、「モノの本質を見て、自分なりに納得してから描け」ということと勝手に思っています。そう解釈しないと「立体影」は描けません。
裸身を描く場合は、プロのイラストはもちろん、エロ本(死語?)を大いに参照していいでしょうし、最終手段としては、自身のカラダを見ればよいと思います。目の前に非常によいサンプルがあるわけです。
筋肉の衰えた老人になってからでは、見るに堪えませんので、まだ筋肉がパンパンに張っている若いうちに、大いに参照したいところです。
繰り返しになりますが、上手く描けない場合は、どこにどのように影を入れるかが明確でない可能性があります。
不明確なままでは、いくら高度なブラシツールや「塗り」の教本を買い揃えても、問題は解決しないばかりか、ツールマニアか教本マニアになってしまいかねません。
この記事の内容はあくまでも一例です。好きなイラストレーターの作品を徹底的に分析したり、好きなグラドルの写真を参考にしたりと、楽しみながら研究してはどうかと思います。衣装のシワ影などにも応用が利くと思います。
この記事がよりよい表現のきっかけになれば幸いです。