今回はワンブラシによる肌の影塗りに挑戦してみました。
用いたツールは、水彩ブラシの一種である「塗り&なじませ」です。
「塗り&なじませ」ブラシ
塗り&なじませブラシは、クリスタの水彩筆のひとつです。2019年にクリスタを購入した時点ですで搭載されていたブラシのひとつだったと思いますが、コンセプトがよくわからなかったこともあり、ほとんど使えていませんでした。
ブラシの概要です。
デフォルト(初期状態)
初期状態のブラシは、先端が円形で、エッジがかなりボケています。
ブラシ硬さを変更
デフォルトのままだと、エッジがボケボケなので、必要に応じてブラシの硬さを調整した方がよいと思います。堅さ5の場合以下のようなタッチになります。お好みですが、人肌の影塗りの場合は、4ぐらいがちょうどよいと感じました。
ブラシ先端のカスタマイズ
硬さ調整を施すだけでも使いやすくなりますが、さらにアナログ感を出したいと思い、ブラシ先端に「画像」を使いました。今回は「三角おにぎり画像」を用いました。
用いた画像は自作ではなく、よー清水さんの教本に添付されていたものです。厚塗り用によー清水さんがカスタマイズされたものでしょう。こちらは配布できませんが、類似のブラシ先端がクリスタの素材屋さんにいくつかあります。さほど厳密なものではないので、描きやすそうと感じたもので試してみてはどうかと思います。
ブラシ先端に画像素材を使った場合は、ブラシの硬さ調整はなく、画像のエッジがタッチにそのまま反映されます。
グラデーション、ぼかし、なじませ方法
彩色部分のエッジをぼかすには、濃いめに塗った後で、同色もしくは透明インクの弱い筆圧でエッジをなぞります。透明インクで筆圧強めに描けば彩色部分を消すことができます。
また、筆圧を加減して、薄い色から濃い色に変化させた場合は、トーンの境界線が段階的にはっきり出ます。逆に濃い色から薄い色に変化させた場合は、色がまじりあうことで、比較的スムーズなグラデーションになります。
ブラシのこうした特性を生かし、最初は弱い筆圧で調子を見ながら次第に濃い目にしたり、筆圧を加減することでエッジをたてたりボカしたりをブラシ一本で連続的に変化させることができます。このブラシはムラになりにくいので、ためらいながら何度でもやり直せます。
大きなグラデーションの場合エアブラシの方が塗りやすい場合もありますが、ブラシサイズを大きくした同一ブラシを使った方が統一感、アナログ感が出せるような気がします。
「塗り&なじませ」ブラシの限界
「塗り&なじませ」のいいところは、筆圧に応じてトーンが変えられることです。筆圧を弱くすることで、ぼかしに近い表現もできます。ですが、線幅は自由に変化できません。
プリセットでは、線幅をペンの傾きで変化させています。筆圧にトーンを割り当てているためやむを得ずこのような設定にしているのかも知れませんが、これはかなり使いにくい。
今回のイラストでは使いませんでしたが、場合に応じて線幅を筆圧に応じて変化させています。つまり、トーンの変化と線幅を同時に変化させています。先端に行くほどトーンが弱くなってしまうため、ペンや一般の筆のような鋭い先端にはなりませんが、柔らかなトーン表現ができます。気が向いたらお試しください。
「塗り&なじませ」 ブラシを適用した部分
人肌の基本的なレイヤー構成を以下として話を進めます。
レイヤー | 名称 | 内容 |
4 | ブルー | 遠近感の強調、周囲からの乱反射による影部分の照り返し |
3 2影 | 落ち影 | 光源にさえぎられて生じる影 |
2 1影 | 立体影 | 立体感を出すための基本の影 形状を浮かびあがらせるのが目的なので、光源に関係なくつけられる場合もある |
1 最下層 | 下塗り | プレーンな塗り、Gペンで塗りつぶしたりバケツで一色を流す |
今回「塗り&なじませ」ブラシを用いたのはレイヤー2「立体影」とレイヤー3「落ち影」の二面に対してです。
肌のどこにどのように影をつけるか
今回特に注意した点は、肌のどこにどのように影をつけるかでした。
私自身今までかなり無頓着に影をつけていました。
影は、光源の反対側に杓子定規的に描いても、プロっぽい絵にはなりません。
プロのイラスト、プロっぽいイラストを注意深く見てみると、物理的ルールとは異なるルールで描かれているのがわかります。
当然ですが、同じイラストレーターでも、影のつけ方は作品によって大きく異なります。そこで、複数のイラストレーターの似たタイプの作品を選び、どこにどう影をつけているかの傾向をつかみ、まとめてみました。
影1(立体影)を強めに入れている箇所
立体影を強めに入れている箇所は以下の部分でした。(今回のイラストの場合は、ももから上なので、ひざ以下は省略しています)
- 膝、肘、肩などの関節が折れ曲がっている外側
- 膝、肘、脇などの関節の内側
- へそや乳房などの面の角度の変化が大きい部分
影1(立体影)を弱めに入れている箇所
立体影を弱めに入れている箇所は、以下の部分でした。
4. 筋肉がついている部分で筋肉の形を浮かび上がらせるための影(上腕、下腕、腹筋、腿、脛など)
たまたま気に入った少数のイラストを元にしていますので、すべてのイラストに共通するルールというわけではありません。あくまでも考え方をつかみ取るための観察と考察になります。
仕上がりイメージによる解説
ルールに基づいて仕上げたイラストのそれぞれの影に番号をつけました。(代表的な影です)
肘や膝などの影❶
肘や膝、肩の部分のやや濃いめの彩色は、実際には「影」ではなく、肌の「赤み」になります。
なので、たとえその面が光源に向いていたとしても彩色されます。色味は多少赤っぽくてもよいですが、影と同色を使えばソフトで落ち着いた印象になります。
脇、腕などの内側の影❷
脇、腕などの内側は影になりやすい部分です。特に腕を曲げている場合は、付け根の部分が深い谷間になります。
影の縁は、筋肉の盛り上がりの等高線に沿わせれば自然に見えます。
へそ、乳房などの影❸
2と同様の深い谷間部分の影です。影のつけ方についても2と同様、肌の山、谷の等高線に沿わせれば自然に見えます。
筋肉を浮かび上がらせるための影❹
プロの絵を見ても、作者や作品によって最も変化の大きいのがこの影です。筋肉全体にグラデーションをかけた大きな影を入れる場合もあれば、あるかないかわからないほどうっすらと施されている場合もあります。
このイラストでは、トーンを抑え、他の影同様、筋肉の盛り上がりに沿って等高線状に彩色しました。
人肌の「立体影」についてまとめた記事を別途書いていますので、よろしければこちらもご参照ください。
制作データ
このイラストの制作データ(クリップスタジオペイントプロ)は、以下のページからダウンロードできます。
まとめ
今回のトライアルの肝心な点は、ブラシというツールそのものというより、「どこにどのように影をつけるか」の「計画」を立ててから描いたことではないかと思っています。「計画」があれば、どんなツールを使おうが結果は似たようなものになったように思います。
衣装の影塗りには「筆圧によるブラシ幅の変化」がどうしても欲しく、他のブラシを用いています。
衣装の影塗り例として「水多め」と「色混ぜ」のコンビネーションを別記事にしています。こちらも実験中ではありますが、よろしければご確認ください。
参考になる部分があれば幸いです。
今回使ったブラシの画像素材は、こちらの書籍のブラシに使われていたものです。この書籍は、いわゆる厚塗り(グリザイユ画法)の解説書になります。他の「塗り」関連書籍に比べてプロセスや考え方がわかりやすいので、この技法に関心があるならお勧めの書籍です。