ビジネスサイトや、プレゼンデーションなどでは、線画のないプレーンな配色を用いたシンプルなイラストがよく使われます。
ここでは、ベクター・グラフィックソフトであるAffinity Designerとラスター・グラフィックソフトであるクリップスタジオペイントを組み合わせたビジネスイラストの制作プロセスをご紹介します。
ビジネスイラスト・サンプル
今回制作するのは次のイラストです。

上から斜め下を見たイメージです。パースがかかっていないアイソメトリックと呼ばれる立体表現になります。
では早速プロセスを見ていきましょう。
ビジネスイラスト制作プロセス
制作プロセスは、次のような流れになります。
- スケッチ
- Affinity Designerによるアイソメトリックガイドラインの出力
- クリップスタジオペイントによる3Dモデルの配置
- 3Dモデルイメージの出力とAffinity Designerへの取り込み
- 折れ線を用いたトレース
- 彩色
以下、プロセスに沿って説明いたします。
スケッチ
最初に、どんなイラストにしたいかのイメージスケッチを描きます。具体的なイメージが頭の中にあるのであれば、このスケッチはスキップしても構いません。
Affinity Designerによるアイソメトリックガイドラインの出力
まず、Affinity Disignerを用いてガイドラインを作ります。最初にAffinity Designerの新規イメージで、A4横サイズを選択します。

A4横の白紙が表示されます。次に「表示」ー「グリッドおよび軸マネージャー」のプリセットにて、「1cm等角投影立方体」グリッドを選択します。

この操作でできるグリッドは、45度斜め上の視点でできる左右上下の3点パースラインを意味します。
このパースは消失点が無限遠にあり、左右、上下それぞれのパースラインはすべて平行線になります。
このグリッドにスナップさせて、おおよその床面(ここでは正方形としています)を描きます。
描線をグリッドにスナップさせるには、「表示」ー「スナップマネージャー」で「スナップを有効にする」「グリッドにスナップ」にチェックを入れます。

この絵を一旦出力します。クリップスタジオペイントで読み込める形式であればなんでも構いません。Affinity Designerとクリップスタジオペイントのデータの位置合わせのためだけに用いるガイドラインであり、最終的には非表示になります。

クリップスタジオペイントによる3Dモデルの配置
Affinity Designerで作成したガイドラインをクリップスタジオペイントで読み込みます。読み込んだガイドラインを基準に、3Dモデルを配置します。
この絵では、以下のような4体のモデルを配置しました。
Affinity Designerで作ったアイソメトリックのガイドラインとクリップスタジオペイントのパースラインとが微妙にずれていることがわかると思います。
クリップスタジオペイントのパースラインの設定には、消失点を「無限遠にする」という機能があり、アイソメトリックに近いパースラインが引けるのですが、その処理を行うと3Dモデルの形状が大きく崩れてしまいます。
ここでは、パースラインの一部を一致させ、消失点の位置を3Dモデルが不自然でない程度に調整した状態で作業を進めることにしました。

3Dモデルイメージの出力とAffinity Designerへの取り込み
今度は、クリップスタジオペイントから、Affinity Designerにイメージを渡します。
クリップスタジオペイントの「画像を統一して書き出し」で、Affinity Designerが読み込めるフォーマットで出力します。いずれこのデータは非表示になりますので、JPEGやPNGなどの一般的なイメージデータで問題ありません。
折れ線を用いたトレース
取り込んだイメージを、Affinity Designerでトレースしていきます。
ペンを用いて実線でトレースします。最終的に線は表示しませんから、ここでの線の色や幅は作業がしやすいものに設定すればよいでしょう。
ここでは、線色をクロ、線幅を0.4ポイントとしました。
3Dモデルのトレースの際には、グリッドへのスナップを解除します。「表示」ー「スナップマネージャー」にて「スナップを有効にする」のチェックを外します。

ペンを用いて、3Dモデルの周囲を多面体近似でグリグリとトレースしていきます。不自然さがない程度にモデルの外形線を近似した線で問題ありません。

ラインは、始点と終点を一致させれば、ひとつの多面体ができあがり、これがひとつのブロックになります。

ラインを消すには、「境界線」の線幅「なし」を選択します。

実線が消えトレースラインのみとなります。

彩色
次に、肌ブロックの内側に色を入れます。「塗りつぶし」を選択し、スウォッチからオレンジ色を選びます。その他の方法としては、「カラー」のマップで色調整したり、2色以上を組み合わせて「グラデーション」で塗りつぶすこともできます。
図形の内側の色や配色方式、線の色や幅などはすべて後からどのようにでも変更できます。また、複数のブロックをまとめて変更することも可能です。


人物仕上げ
ブロックを重ねたときに一番下になる「肌」から一番上になる「衣服」の順に、積み上げるように描いていきます。

背景
背景には、説明に用いているフリップボード、背後にあるパイプ(工場や施設のイメージ)、そしてイラストにまとまりを持たせるために配置する楕円状の枠をレイアウトしていきます。
フリップボードのような工業製品は、アイソメトリック表示されたグリッドを利用すれば、特に下描きなしで描画を進められます。

「表示」ー「スナップマネージャー」で「スナップを有効にする」「グリッドにスナップ」にチェックを入れれば、描線はグリッドに沿って描かれます。

次いで、後ろにあるパイプ類を描画します。これらも下描きなしで、グリッドに沿って線を引くことで、描画が進められます。


フリップボードに表示されるイラストには、フリー素材を用いました。

最後に楕円形の枠を配置して、イラストは完成です。

仕上がった絵は、クライアントから指示のあったフォーマットで出力します。この手のイラストは、多くの場合、PNG形式(透明部分あり)か、Illustrator形式(.ai)での納品を求められます。
Affinity Designerはillustratorフォーマットでの出力はできないためpngで出力します。

まとめ
ベクター・グラフィックソフトであるAffinity Designerと、ラスター・グラフィックソフトであるクリップスタジオペイントを組み合わせたビジネスイラストの制作プロセスについて、足早に見てきました。
この作業では、Affinity Designerが制作の中心的役割を担い、クリップスタジオペイントは3Dモデルを提供するだけの補助的な役割を担います。
このイラストの場合、人物の描線を多面体近似としているため、かなり高速で描画できます。スケッチから仕上げまで半日ほどで済みました。
細かい部分は後々自由に修正できますので、クライアントには一旦この状態をラフとして見てもらい、フィードバックをもらった後で、変更と同時に細かな仕上げを施せばよいと思います。
人物のない絵や、3Dモデルが不要であれば、Affinity Designer一本で作画が進められます。
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